緊急時の対応を確実にするために

事故前は、安全向上に資する国内外の情報収集・分析に消極的で、法令・規則等で求められている対策のみを実施している状態にありました。また、緊急時対応訓練が形骸化し、事故時は指揮命令系統が混乱。事故の初動で、自社で対応可能な範囲が限定的で、対応力が欠如していました。
こうした反省を踏まえ、世界各国の事故やトラブル情報を積極的に収集・分析、安全性向上の社内コンペの実施、シナリオを共有しない緊急時対応訓練など、各発電所の状況にあわせた技術力の向上の取り組みを行っています。

Pick Up

いついかなる時でも、最大の対応力を。

福島第一原子力発電所事故当時、復旧作業に必要な重機などを発電所内に配備しておらず、また、社員が操作を行うことができなかったため、様々な支援を受けて対応せざるをえませんでした。その反省から、重機や消防車、電源車などをあらかじめ配備。多くの社員が、運転技術を習得し、様々な訓練を重ね、緊急時対応力の強化に努めています。この緊急時対応の改革を動画でご紹介します。

いついかなる時でも、最大の対応力を。のイメージ写真

深層防護提案力の強化

安全向上提案力強化コンペ

深層防護の取り組みを「積み重ねる」ことができるよう、安全向上の社内コンペを実施しています。年に2回程度、予算計上時期に実施。不断ない改革のために、あらかじめ予算を確保しておくようなことはしないためで、通常の予算枠とは別に、迅速に安全性を向上させる案を積極的に募集しています。
提案者は技術系社員に限定せず、全原子力部門所属者を中心に実施するものの、広く他部門からも提案を募っています。

深層防護提案件数のグラフ図

非常災害対策車の配備のようす

社内コンペによる改善例

原子力災害時の後方支援拠点の情報連絡手段の強化として、衛星車載局と組み合わせた非常災害対策車を配備しました。後方支援拠点の事業所建物や情報連絡基盤が被災した場合も、連絡が可能になりました。福島第一、福島第二、柏崎刈羽に配備しています。

外部の運転経験を積極収集・分析

世界中のどこかで起こったことは、東京電力でも起こりうるという視点に立ち、国内外の安全情報を活用するプロセスを構築しています。事故を未然に防ぐためには、国内外の運転経験(OE:Operating Experience)情報や他の産業の安全情報の活用が不可欠です。
四半期で20~40件のOE情報を収集。分析により、何らかの対策を行う必要がある案件を抽出し、発生可能性や採り得る対策のオプション、対策しなかった場合のシナリオなどをまとめた影響評価書を作成しています。
柏崎刈羽原子力発電所では、毎日の定例ミーティングでもOE情報を職場で共有しています。

定例ミーティングのようす

ハザード分析

設計上の想定を大きく上回り、安全設備の広範な機能が喪失する事故(ハザード)への対策を検討し、炉心損傷等による周辺環境への重大な影響を発生させないための最善の対策を追求しています。
ハザード分析の対象となる事象は、竜巻(F3を超えるレベル)、テロ行為、海底火山噴火、巨大隕石の衝突などを含め、落雷、積雪等の30の自然現象等で、こうした事象が起きた際の影響を順次分析、対応方針を検討しています。

ハザード分析の対象図

発電所や本社の緊急時対応力の向上

緊急時組織の見直し

福島原子力事故の対応の際、現場が混乱し、迅速・的確な意思決定ができませんでした。当社ではこの原因として主に、「発電所本部の情報共有と指揮命令系統が混乱したこと」にあったと考えています。
弾力性を持った組織的対応を行うために、緊急時組織を改編。米国で標準化され、多くの政府・行政機関や、軍/消防/警察/医療等の機関で採用されている「Incident Command System(ICS)」にならって、発電所および本社の原子力防災緊急時組織を改編しました。

改編のポイント

  • 一人の監督者が管理する人数を最大7名以下に制限
  • 災害規模に応じて縮小、拡張可能な柔軟な組織構造
  • 指揮命令系統の明確化(直属の上司の命令にのみ従う)
  • 役割分担の明確化(決定権を現場指揮官に与えること)
  • 災害規模に応じて縮小、拡張可能な組織構造
  • 全組織で情報共有を効率的に行うための様式やツールの準備と活用
  • 技量や要件の明確化と教育訓練の徹底

事故当時の指揮命令系統

発電所の下に12の機能班を有する体制

事故当時の指揮命令系統図

現在の指揮命令系統

機能毎に統括責任者を配置した指揮命令系統

現在の指揮命令系統図

平常時の発電所組織の見直し

原子力の安全改革を俯瞰する機能を強化するために、緊急時組織だけでなく、平常時の発電所組織の見直しも行っています。

訓練を繰り返す

必要なことは、単に組織を改編するだけでなく、訓練を繰り返して、事故対応が可能であることを確認し、改善を繰り返していくことです。
発電所全体で実施するような総合訓練は、震災以降に40回以上実施しており、各部署での個別訓練は6,000回以上実施しています。

柏崎刈羽原子力発電所の総合訓練の様子

オフサイトセンターから派遣要員を移送させる訓練も

個人の緊急時対応力や現場力の強化

東北地方太平洋沖地震以前は、発電所内の設備保全等の現場工事(作業実施)は、協力企業またはメーカーへの請負などを基本として実施していました。福島原子力事故の教訓として、事故発生後72時間は、発電所の所員によって責任を持って緊急時作業を実施できる体制を整えています。
たとえば、がれきを撤去するための重機の運転免許取得や、力量を維持するために、電源車・消防車の運転訓練を実施しています。

免許を取得した社員数

個人の緊急時対応力や現場力の強化のイメージ写真

関連情報

  • 柏崎刈羽原子力発電所安全対策のイメージ写真

    柏崎刈羽原子力発電所安全対策

    柏崎刈羽原子力発電所では、福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえて、様々な安全対策に取り組んでいます。耐震・対津波機能、重大事故を起こさないために設計で担保すべき機能、万が一、重大事故が起きてしまった場合に、それに対処するために必要な機能を整備しています。また、緊急時対応訓練を数多く実施しています。